2011年2月5日土曜日

独自技術による失敗から

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● 朝鮮日報「韓・中・日 新経済大戦」より


 造船が「中の下」の技術なら宇宙開発は「上の上」だろう。
 あの「はやぶさ」の帰還は圧倒的だった。
 震えがでるほどであった。
 いまでも「はやぶさ」の名を聞くとあの感激が蘇ってくる。
 「はやぶさよ、地球は君の帰りを待っている! 」


朝鮮日報 : 2011/02/05 10:04:16
http://www.chosunonline.com/news/20110205000015

「独自技術による失敗が宇宙大国への近道」

 東西冷戦時代、米国とソ連は友好国に対する宇宙技術の移転に寛大だった。
 ところが宇宙先進国は、韓国が本格的に宇宙開発に乗り出した1990年代から障壁を高め、技術移転を渋り始めた。
 韓国の場合、スタートが遅かったという理由もあるが、宇宙開発の条件が以前に比べ良くないのはこのせいだ。

 それでも、あまり性急に成果を期待したり、国力誇示のため宇宙開発を行うのは避けるべきだ。
 2度にわたる宇宙ロケット羅老号の打ち上げ失敗が、このことをはっきりと示す教訓だ。
 韓国は2000億ウォン(現在のレートで約144億円)以上をロシアに支払ったが、ロシアの液体燃料ロケットエンジンの技術を手に入れることができず、打ち上げ失敗の過程で韓国が得られる情報すら制限された。

 多くの時間と労力を重ねつつ、われわれは独自の宇宙技術開発を進めなければならない。
 そうした点で、中国や日本の宇宙開発は、韓国に多くのことを示唆している。

 50年代から宇宙開発に乗り出した中国も、多くの浮沈を経験したが、統帥権者の揺るぎない支援により、最終的には宇宙先進国の仲間入りを果たした。
 中国と同時期に宇宙開発を始めた日本も、小惑星探査機はやぶさ(MUSES-C)、月探査衛星かぐや(SELEN)などの打ち上げに成功したほか、宇宙船のドッキング技術も確保した。

 実際に羅老号を開発する以前、韓国も90年代初めからロケットの独自開発を進めていた。
 それまで順調だったロケット開発計画に混乱が生じた背景には、政治的要因があった。
 98年に北朝鮮がテポドン・ミサイルを発射したことを受け、韓国も相応のロケットを開発すべきだという要求が政界から上がり、これによって独自開発計画に狂いが生じた。
 その結果、ロシア側の技術に依存してロケットを打ち上げる方向に転換。
 ところが、当初目標にしていた05年の打ち上げは、ロシア側との宇宙技術保護協定の遅延で09年にずれ込んだ。
 もし、独自開発計画が持続的に進められていれば、失敗したとしても、それは韓国の「栄養」として残っていただろう。

 「他人の技術による成功」
よりは、
 「自前の技術による失敗
の方が、宇宙大国を目指す最も近道だと言える。




朝鮮日報 : 2011/02/05 10:00:49
http://www.chosunonline.com/news/20110205000012

宇宙開発、前途遠い韓国

 韓国で人工衛星搭載ロケット「羅老(ナロ)号」の2回目の打ち上げが失敗に終わった三日後の昨年6月13日午後7時51分、縦1メートル、横 1.6メートル、高さ2メートル、重さ510キロの物体が宇宙から大気圏に突入した。
 8年前の2003年5月、地球から3億キロ離れた小惑星イトカワに向かって打ち上げられた日本の探査機「はやぶさ」だった。

 はやぶさは3時間後、空気との摩擦熱によって空中で燃え尽きた。
 しかし、はやぶさの機体から離脱した長さ40センチの円筒型のカプセルはオーストラリアのウーメラ砂漠に落下した。
 摂氏3000度の高温を耐え抜いたこのカプセルには、太陽系形成の秘密が隠された小惑星イトカワの岩石の微粒子が入っていた。
 人類の歴史上、月よりも遠くを探査し、地球への帰還に成功したのは、はやぶさが初めてだった。

■日本の宇宙開発の底力

 はやぶさの60億キロにわたる旅路からは、55年間にわたる日本の宇宙産業の底力をうかがい知ることができる。
 地上との通信が途絶した危機的状況で、自らアンテナを地球に向ける人工知能技術、宇宙空間を15年以上飛行できるイオンエンジン技術、故障した2個のイオンエンジンのうち正常に作動する部品を遠隔操作で回路をつないで1基のエンジンとして使う遠隔制御技術、摂氏3000キロの高温からカプセルを保護した断熱技術-。

 はやぶさの技術力は、宇宙開発の「宗主国」といえる米国をも驚かせた。
 はやぶさが帰還した当日、米航空宇宙局(NASA)は観測機を動員し、はやぶさの大気圏突入過程を観察した。
 はやぶさの突入速度がNASAのスペースシャトルの1.5倍に当たる秒速12キロに達するということが信じられなかったからだ。
 現在NASAは、はやぶさに搭載されたイオンエンジンを購入する方向で、日本と交渉を進めている。

 日本の底力は、政府の予算や人材を見ただけではその実体をうかがい知ることはできない。
 09年の日本の宇宙開発予算は37億2400万ドル(現在のレートで約3020億円)で、米国の6分の1にすぎない。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究陣は3300人で、フランスやドイツの宇宙庁と同様の水準だ。

 日本の宇宙産業の真の主役は、世界最高の技術力を備えた民間企業だ。
 はやぶさの通信技術は富士通、断熱技術はIHI、イオンエンジンはNECがそれぞれ開発した。
 亜洲大のキム・ドゥファン教授(宇宙計測情報工学)は、
 「日本の宇宙開発は、JAXAが統括する一方で、部門別の開発はすべて民間企業が担当するという形態の産学協力が特徴だ」
と指摘した。

■独自の宇宙ステーションを目指す中国

 中国は国慶節に当たる昨年10月1日、月探査衛星「嫦娥(じょうが)2号」を打ち上げた。
 嫦娥2号は打ち上げから五日後の6日に月の軌道に進入することに成功した。
 中国はロシア、米国と並び、宇宙に人類を送った「宇宙3強」だ。
 03年に有人宇宙船の打ち上げに初めて成功し、08年には「神舟7号」の宇宙飛行士、ジャイ・ジーガン氏が宇宙遊泳に成功した。

 中国は1950年代にソ連からミサイル技術の移転を受け、70年代には大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発するほどの実力を備えた。
 その後、ソ連との関係悪化により、独自開発に乗り出した。
 しかし、失敗の連続だった。
 90年代半ばまで、中国の宇宙開発は二流扱いだった。
 96年には人工衛星打上げロケット「長征」の打ち上げに相次いで失敗すると、中国は衛星打ち上げ保険の加入も拒否される立場となった。
 長征シリーズは81回の打ち上げで11回もの失敗を繰り返した。
 しかし、数々の失敗から学んだ実力は確実に実を結び、2000年以降、長征は100%の打ち上げ成功率を誇る。

■韓国の宇宙開発の現状

 日本は1970年2月11日に人工衛星「おおすみ」を、中国は 2カ月後の4月24日に「東方紅」を独自開発したロケットの打ち上げに成功した。
 それから40年の歳月が流れたが、韓国はロシアのロケットに依存した「羅老号」の打ち上げにも失敗した。
 韓国は、2020年までにロケットを独自開発するという目標を立てているが、日本と中国に比べ、少なくとも50年以上遅れている計算だ。
 過去10年間に打ち上げに成功した人工衛星の数は中国が65個、日本が47個だが、韓国は5個にすぎない。
 ただし、韓国が自力で打ち上げた衛星は一つもない。

 韓国の宇宙産業が日中よりも半世紀以上遅れている決定的な理由は、1979年に韓米間で締結されたミサイル覚書にあるというのが定説だ。
 この覚書により、韓国は射程距離180キロ、弾頭重量500キロ以上のミサイルを開発することができなかった。
 宇宙産業の基礎となるミサイル分野に自ら足かせをはめてしまった格好だ。

 日本の宇宙開発の父と呼ばれる五代富文・東大航空宇宙会会長(78)は、
 「中国が1970年に長征ロケットを打ち上げる前に十分な資金や技術があっただろうか。
 すべては国家の意志、科学者の執念からスタートしたのだ」
と話した。

 漢陽大のキム・ギョンミン教授も、
 「失敗を恐れない強い意志と絶え間ない研究開発こそ、宇宙強国への唯一の道だ」
と指摘した。




朝鮮日報 : 2011/02/05 10:05:16
http://www.chosunonline.com/news/20110205000016

ますます膨らむ宇宙市場

 宇宙開発は「金を食うカバ」に過ぎないという批判がある。
 これは、実生活に活用されている宇宙技術を知らない人の言葉だ。

 電子レンジの技術は、宇宙飛行士の食べ物を調理する過程で開発された。
 凍結・乾燥(フリーズドライ)処理された宇宙食を温めて食べるために開発されたのが電子レンジだ。
 浄水器も、宇宙飛行士の飲み水に混入しているかもしれない重金属を取り除くためのイオン濾過(ろか)装置から始まった。
 体温を感知して元の形に戻る形状記憶合金を利用した下着も、宇宙技術に由来する。
 形状記憶合金は、アポロ月着陸船のアンテナ用として開発された。
 畳んでおいたアンテナを展開して、また元の形に戻すために、形状記憶合金が必要だった。
 20世紀に人類の宇宙への挑戦を先導した米航空宇宙局(NASA)に、
 「人類最大の発明集団」
という別名が付いたのも、こういう理由からだ。

 人工衛星の製造や宇宙ロケットの開発など、宇宙市場そのものの規模も極めて大きい。

 宇宙市場は、一昨年1004億ドル(現在のレートで約8兆1675億円、以下同)規模に達した。
 さらに、2020年には2000億ドル(約16兆 2700億円)規模にまで膨らむ、と市場調査機関では予想している。
 ユーロ・コンサルトによると、今後10年間で700を超える人工衛星が打ち上げられる予定で、この分野だけでも1100億ドル(約8兆9485億円)の市場が形成される見込みだ。

 スマートフォン(高機能携帯電話)の普及は、衛星市場をさらに大きくしている。
 衛星利用測位システム(GPS)を活用した地図や位置情報サービスは、衛星情報市場をますます膨らませている。現在のGPSサービスは、米国の人工衛星が地上に送る信号を無料で使用している。
 ヨーロッパや中国は、位置情報がまるごと米国の手の中にあるという不安感から、独自の衛星を打ち上げ、独自のGPS構築を推進している。


 宇宙技術は造船のように目に見える技術ではない。
 よって、地道に地道に基礎を積み上げていくしかない。
 耐えて耐えて耐えぬくしかない技術である。
 目先のソロバンで開発に手を出せるようなシロモノではない。

 まさに「国家の意志、科学者の執念」あるかないかである。




 <future design> 



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